2010年09月11日 22:27
大変お待たせしました!!
「オレとカノジョのエンドレスウォーズ」の続きです。
今回のテーマは“出会い”です。
しかし書くのが遅いですね・・・
あと、一応前回のもアップ↓
オレとカノジョのエンドレスウォーズ
何はともあれ、
9000ヒットありがとうございます!!
Round 0-1 出会いは金属バットと共に
そもそもの発端はあのテストだった。
2週間前、蒼海高校入学後のクラス振り分け試験。
オレが入学したこの蒼海高校では、入学直後にクラス分けのテストがある。
このテストの成績によって、AクラスからHクラスまでの振り分けがなされるのだ。
「お前、中学の時からスゲーなとは思ってたけど、まさかここまでとはな・・・」
黒瀬がため息をついた。
クラス分けテスト後の、教室前の掲示板。
テストの順位がデカデカと貼り出されている。
「大したこと、してないんだけど・・・」
「あっ?お前それイヤミ?」
掲示板前は、この春入学してきた新入生でごった返している。
皆掲示板に貼り出された順位に一喜一憂しているのだ。
「31位・・・まあ、こんなもんかね~」
黒瀬幸太郎。
コイツはオレの中学からの友人で、中学1年で同じクラスになってから、なにかと話が合う奴だった。
同じような読書傾向であることから意気投合して、今ではお互いの家に週3で遊びに行く仲だ。
勉強は・・・今本人が言ったからわかるよね。
でも300人以上いる新入生の中で、この順位はまあまあではなかろうか。
「この順位だと、クラスは別か~。昼休みはどうする?こっち来るか?」
「うん。そうする」
「入学早々大変だな~」
「そうだな。勉強大変になるし。部活も決めないといけないし」
「わかってねーな。今はその話じゃない」
「え?」
「注目されるってことだよ、この順位は。それもかなりな」
「・・・ああ」
改めて掲示板を見る。
掲示板の一番上にその名前はあった。
1位 柴田透
ホント、自分でもびっくりだ。
「おーおー、いいよなーAクラスは!きっと秀才の可愛い子がいっぱいなんだろーよー!」
いやいや、勉強できるからって可愛いとは限らんだろ。
これはちゃんと言っておかねば。
「黒瀬、俺は別に目立とうとか、これっぽっちも考えてないからな」
「お前、目玉ちゃんとついてるよな?」
「ふざけてなんかないぞ。今回はたまたまだ!た・ま・た・ま」
「またまた、の間違いじゃねーの?」
「うるさい!とにかく目立ちたくないの。日陰LOVEなの」
「へーへー。わかってますよ。目立たないしばっちょ君☆ ただね・・・」
黒瀬は去り際に振り返り言った。
「音声のボリュームは落とした方がいいと思うぜ」
あ、と言ったときにはすでに遅し。
周りの生徒がこちらを向いて、ひそひそ話をしている。
黒瀬の首根っこをつかんでトイレへ避難。
「お?あの子ちょっと可愛いじゃん。」
トイレで黒瀬を絞めた後、奴は女子の品定めを開始した。
もうテストのことは頭にないらしい。切り替え早。
「あ、君もしかしてAクラス?」
Aクラスから出てきた女子に話しかける黒瀬。
「え、はい。そうですけど・・・」
「俺も君と同じで新入生なんだけどさ~、転校してきたばっかりで今友達いなくてさ~」
お前、生まれも育ちもこの街だって中学の時言ってたじゃねーか。
あと女の子を、友達がいないと言って誘うのはどうなんだ。
「今日授業が終わったら、放課後テストの復習を一緒にどうかな?」
「えーっと・・・・」
迷ってる迷ってる。
「・・・ごめんなさい。放課後用事があって・・・」
あ、逃げられた。
うん賢明な判断だ。さすがAクラス。
というか今のは、どんな女子も反応に困るだろう。
そそくさと教室に退散する女子。
見送る黒瀬。
「なあ、しばっちょ」
「なんだ」
「ナンパに失敗したのは、累計何回目だ?」
へー、今のナンパだったんだ。知らなかった。
「俺が知ってる限りでは、もうすぐ1000回だったと思うが」
オレもなんでこんなくだらないことカウントしてるんだろう。
「ナニが悪いんだ?・・・俺の・・・」
自分の胸とオツムに聞けよ。
「というわけで、俺もう一度トイレに行ってくる」
トイレへ行くぐらいでわざわざオレに断るな。
去っていく黒瀬の背中が、妙にすすけて見えた。
黒瀬は中学の時から、女子にナンパを仕掛けてはフラれていた。
失敗する原因はナンパする相手がよくない時もあるのだが、大体は黒瀬の自業自得だった。
どうにもやり方がトンチンカンなのである。
もうすぐ1000回に到達するのだから、とっくにコツを掴んでいてもおかしくないのだが、
黒瀬にはその方面の学習能力がないらしい。
このままだとこれからもフラれ続けるのだろう。
前から思ってたが、黒瀬のフラれたエピソードを集めていけばいい“ネタ”になるかも知れない。
オレは手帳に“夜・黒瀬フラれエピソード書き出し”と書いた。
こうしておかないと忘れるんだよな。
オレはもう一度近くで順位を確認しようと掲示板近くに寄る。
1位 柴田聡
やっぱりそこにある、自分の名前。
変な感じだ。
黒瀬に言った通り、本当順位なんかどうでもよかった。
そこそこの点数がとれれば、オレは満足だったのに。
しかしこの結果。
大して勉強も準備もしていないのに、思いの他スラスラ解けてしまった。
クラスメイトに勉強教えてくれとか言われるかも。
ちょっと目立たないようにしてよ。
で、なんとなくまた順位に目を移した時だった。
金属バットを持った、一人の女子生徒がこちらをガン見していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
えーっと・・・・
どこから突っ込んだらいいのか・・・
というか先生に報告した方がいいのか?・・・
女子生徒と見つめ合う。
それとなく目をそらすオレ。
えーっと・・・何だアイツ?
そして手に持ってるアレはなんだ?
何で誰も注意しない?
どうしてこっちを見てる?
自分の胸に聞いてみるが、さっぱり心当たりなし。
しかし、あの形相はただ事ではないということだけは感じ取れた。
オレはもういちど姿を確認するため、恐る恐るそいつの方を向いた。
そいつはセミロングの茶色がかった髪で、
前にかかった髪を、赤い髪留めでとめている。
顔立ちははっきりしていて、若手の女優みたいな雰囲気があった。
が、今は眉間にしわが寄っていて、なんとも近寄りがたい空気を放っていた。
今、腕を組んでこちらを見ている。
蛇に睨まれたようなとはこういう感じなんだろう。
そして、なるべく気にしないようにしていたのだが、
視線はどうしても手に持っている金属バットに目がいってしまう。
で、どうするオレ。
いつのまにか冷や汗が滝のように出ている。
話しかけた方が良いんだろうか。
この時間、こんな場所で金属バットを持っているような奴にか。
いやいや、明らかに面倒なことになるフラグが立っているぞ。
今、オレの周りに生徒はいないから、アイツが見ているのはオレで間違いない。
しかし、今この状況で彼女に話しかけるのは頭がNoと赤ランプ表示で警告していた。
「そこのアンタ」
「え、は、はい?」
こっちが悩んでいると、当の金属バット女が話しかけてきた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「えーっと・・・何でしょう?」
彼女は掲示板の一番上を指差す。
指の先にあるのは、俺の名前。
「アンタ・・・柴田聡ってどの人だかわかる?」
「え?」
さて問題、オレはこれからどうするでしょう?
A: 素直に「オレです」と名乗り出る。
B: 嘘をついて、黒瀬のことを教える。
チッチッチッ、ポーン。
正解は・・・
「Dクラスのツンツン頭の奴がそうだよ」
正解はB。この主人公、結構黒い。
「あ、そ。ありがと」
そう言って、彼女はバットを引きずりながら去っていった。
・・・・・・・・・・・・・・
ふーっ・・・・
緊張が解けた。
冷や汗がようやく止まった。
何だったんだ?アイツ・・・
ほっと一息、とそこで気づいた。
とっさに黒瀬のこと教えちゃったけど・・・大丈夫かアイツ?
キーンコーンカーンコーン。
と、ちょうどチャイムが鳴った。
ま、いっか今は。って良くないけど。
先生に言ったほうがいいよな。絶対。
あとで黒瀬がどうなったか聞きにいこう。
手帳に忘れずに“昼食時・黒瀬に女子生徒との顛末を聞く”と記入。
オレは職員室へと歩を進めた。
「今日からこのAクラスの担任になる山野だ。よろしくな」
ホームルーム。
担任の先生が自己紹介を終えた。
数学の先生だそうな。
見た感じと紹介を聞くかぎり、いい先生みたいだ。
入学式の教師の顔ぶれを見たとき、厳しい先生もいるみたいだったので心配していたが、なんとかやっていけそうだ。
これで1年間は一安心だ。
「じゃあ、次はみんなの自己紹介だな。五十音順でいいな?」
えーッ!!
騒ぎ出す生徒たち。
「コラ!静かにしろ!じゃあまず赤星から」
新学期恒例の行事だけど、面倒くさいよな。
ここで漫画とかラノベだと、変な自己紹介したりする奴がいてちょっと盛り上がるんだけどな。
ただのナントカに興味はありません!!とかな。
そういう自己紹介に興味はあるけど、まあ自分は無難な紹介でいいだろう。
ただでさえテストで学年1位になってるんだから。
順番に自己紹介していく生徒。
と、そこで気づいた。
教室の端、前から4番目。
見覚えのある茶色がかった髪。
固まる俺。
アイツ・・・このクラスだったのか。
と、そうこうしているうちにアイツの順番になった。
おもむろに立ち上がると言った。
「稲森瀬奈、南星中学から来ました」
へぇ~、稲森っていうのかアイツ。
可愛い名前だな。見た目も若手女優みたいな感じだけど、名前を聞くとますますそれらしい感じだ。
俺が一人納得していると、稲森は続けた。
「今の目標は、クラス分けテストで1位の柴田聡を、殺すことです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・ん?」
ちょっと待て。
誰をナニするって?
今、聞こえてはいけない動詞が聞こえた気がしたんだが。
殺すって。
コロスって。
シバタサトルヲ、コロスッテ
コロスッテ、ナニ?
殺害
殺害(さつがい)とは、対象となる生物の生命活動を停止させる行為を指す。
生命は、その生化学的な機能を有し、また生物的な活動を持って「生きている」と認識される。
殺害は、この生命に働き掛けて、その機能を破壊するなどして、生命としての活動を停止させる行為である。(Wikipedia)
ソウデシタ。ベンキョウニナリマシタ。
デ、『シバタサトル』ヲコロスッテ?
シバタサトル・・・・・
アレ?『シバタサトル』ッテ、ダレダッケ?
殺気、ドッカで美馬シタヨ?
ケイジバンのイチバンウエ。
壱位 シバタサトル
スゲーヨ。イチイッテ。
シバタサトルガイチイ。
ン?コクバンノ、イマオレガイルセキニ『シバタサトル』ッテ。
アア、ソウダ。シバタサトルって、
オレだアアアアアアアア阿アアああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
ざわめき始める教室。
(ねえ。柴田って誰?)
(ほら真ん中の席の・・・)
(えっ!あの人が1位?!全然そう見えない・・・)
悪かったな。そう見えなくて。
(アイツが1位の・・・)
(やっぱいるんだな~天才って)
(で、その柴田って人と稲森さんはどういうつながりなの?)
イヤイヤみんな。もっと注目しなきゃいけないワードが出てただろーよ!!
そんなオレを尻目に、稲森は周囲の目などものともせず着席。
そしてクラスの目が注目する中、俺の番。
ていうか、今自己紹介したらオレが柴田聡だってあの女にばれるじゃん。
「柴田聡、蒼美一中から来ました・・・・・・・よろしくお願いします」
結局、稲森の敵対的自己紹介のおかげで、テンプレな自己紹介に終わってしまった。
その後、当然だが殺気のこもった視線が痛かったが、オレはどうしても視線の主の方を振り向くことができなかった。
昼休み。
黒瀬に稲森のことで話を聞くために、こそこそDクラスへ。
「黒瀬ー?」
黒瀬はどこの席になったんだろうか?
近くにいた男子生徒に聞いてみた。
「黒瀬?ああ、一番後ろ。窓際の端だよ」
見ると、当の本人が机に突っ伏していた。
オレは礼を言い、黒瀬の肩に手を置いた。
「おい黒瀬」
「・・・・・・・・・・」
「あのさお前、オレと別れた後でお前の所に女子が来なかったか?」
「・・・・・・・・・・・・来た」
「なんて言ってた?」
「そのことも含め、お前に聞きたいことが山ほどある・・・」
黒瀬がゆらりと立ち上がった。
「まず聞くぞ。誰だあのイカレ女」
「知らない。今日初めて会いました」
「あの女と、何にもなかったのか?」
「だから、初めて会ったって」
「今日初めて会った奴が、どうして金属バット持って追っかけてくるんだよ?!」
「・・・・・・・・」
なんだそりゃ。
そんな物騒な奴、ますます心当たりがないぞ。
黒瀬が震えながらオレにつかまってきた。
「あの女がいきなりやって来て『アンタが柴田ね?』って聞いてきたんだ。
そしたら俺が答える暇もなく、金属バット振りかざして『・・・死ね!!』って言いやがってさ。
俺、生涯初めて確信を持って『殺気』と呼べる代物に出会った気がする・・・」
「???」
黒瀬によると事の顛末はこうだ。
オレと別れた稲森は、わざわざDクラスの黒瀬の所に押しかけて、
金属バットで『柴田聡』に天誅を下すつもりだったらしい。
金属バットで初対面の相手を襲撃。
初めて会った時から普通ではない空気を放ってはいたが、まさかここまでとは。
そもそも正気なのか奴は?オレも黒瀬同様、あの女には注意せねばなるまい。
結局、授業開始の時刻を過ぎて教師に注意されるまで、黒瀬は稲森に追い掛け回されたそうだ。
そして稲森は金属バットを持って追い掛け回していたのに、教師からはそのことについて少ししか注意がなかったことを、
黒瀬は不思議がっていた。
「ゼッタイおかしい!!あれだけのことを俺にしておきながら、なぜアイツは注意がちょっとだけなんだ?!」
「そうだな。それはおかしいな」
実はオレも初対面の後、職員室に報告しに行ったときに、
教師たちが稲森についてはっきりしたことを言わないのを変に感じていたところなのだ。
しかし、そのことは黒瀬には黙ってよう。
「おい!しばっちょ!本当に知らないのか?!!」
「ホントーに知らないです。ていうかそんな奴知り合いになりたくないです」
というか稲森に黒瀬のことを教えたのがオレだということを、黒瀬は知らないらしい。
それはそれはよかった。面倒事は人任せにするに限る。
「は、そうだ!こんなところで寝てる場合ではなかった!!」
黒瀬は高速の速さで出入り口の外を確認する。
「あの女がまたどこで俺を狙ってるかわからないからな」
「ああ、そうだな」
「あ、そうだ。しばっちょ。あの女を見かけたら携帯にメールを送ってくれ」
「うんわかった」
無理だな。だって携帯は校則で禁止されてるし、そもそもオレは携帯は持たない主義なんだ。
「・・・そういやお前。何か俺に用があったんじゃないのか?」
「いや。なんでも」
面白いネタが見つかって、これ以上何もいらないです。
「そうか。じゃあ俺は忙しいから!!」
物陰に隠れつつ教室を去る黒瀬。
オレはそれを見送った。
と、そこへ。
「ちょっとアンタ」
噂をすればだ。ちなみに金属バットは持ってない。
「ああ、柴田君ならさっき出て行きましたよ?」
「・・・・ホント、とんでもない悪党よね。嘘を教えて自分の友達を犠牲にするなんて」
バレてるよね。一緒のクラスだもん。自己紹介しちゃったし。
と、むんずと腕を掴まれる。
「おい、どこへ行くんだ?」
「屋上。アンタには言わなきゃならないことが多すぎるのよ」
「ちょうどよかった。こっちも言いたいことがあったんだ」
「それは話が早いわ」
さて、この女がどうしてオレを殺したがってるか、じっくりと聞こうじゃないか。
いいネタになるといいんだけど。
というか、オレは五体満足で帰ってこれるのかな?
「オレとカノジョのエンドレスウォーズ」の続きです。
今回のテーマは“出会い”です。
しかし書くのが遅いですね・・・
あと、一応前回のもアップ↓
オレとカノジョのエンドレスウォーズ
何はともあれ、
9000ヒットありがとうございます!!
Round 0-1 出会いは金属バットと共に
そもそもの発端はあのテストだった。
2週間前、蒼海高校入学後のクラス振り分け試験。
オレが入学したこの蒼海高校では、入学直後にクラス分けのテストがある。
このテストの成績によって、AクラスからHクラスまでの振り分けがなされるのだ。
「お前、中学の時からスゲーなとは思ってたけど、まさかここまでとはな・・・」
黒瀬がため息をついた。
クラス分けテスト後の、教室前の掲示板。
テストの順位がデカデカと貼り出されている。
「大したこと、してないんだけど・・・」
「あっ?お前それイヤミ?」
掲示板前は、この春入学してきた新入生でごった返している。
皆掲示板に貼り出された順位に一喜一憂しているのだ。
「31位・・・まあ、こんなもんかね~」
黒瀬幸太郎。
コイツはオレの中学からの友人で、中学1年で同じクラスになってから、なにかと話が合う奴だった。
同じような読書傾向であることから意気投合して、今ではお互いの家に週3で遊びに行く仲だ。
勉強は・・・今本人が言ったからわかるよね。
でも300人以上いる新入生の中で、この順位はまあまあではなかろうか。
「この順位だと、クラスは別か~。昼休みはどうする?こっち来るか?」
「うん。そうする」
「入学早々大変だな~」
「そうだな。勉強大変になるし。部活も決めないといけないし」
「わかってねーな。今はその話じゃない」
「え?」
「注目されるってことだよ、この順位は。それもかなりな」
「・・・ああ」
改めて掲示板を見る。
掲示板の一番上にその名前はあった。
1位 柴田透
ホント、自分でもびっくりだ。
「おーおー、いいよなーAクラスは!きっと秀才の可愛い子がいっぱいなんだろーよー!」
いやいや、勉強できるからって可愛いとは限らんだろ。
これはちゃんと言っておかねば。
「黒瀬、俺は別に目立とうとか、これっぽっちも考えてないからな」
「お前、目玉ちゃんとついてるよな?」
「ふざけてなんかないぞ。今回はたまたまだ!た・ま・た・ま」
「またまた、の間違いじゃねーの?」
「うるさい!とにかく目立ちたくないの。日陰LOVEなの」
「へーへー。わかってますよ。目立たないしばっちょ君☆ ただね・・・」
黒瀬は去り際に振り返り言った。
「音声のボリュームは落とした方がいいと思うぜ」
あ、と言ったときにはすでに遅し。
周りの生徒がこちらを向いて、ひそひそ話をしている。
黒瀬の首根っこをつかんでトイレへ避難。
「お?あの子ちょっと可愛いじゃん。」
トイレで黒瀬を絞めた後、奴は女子の品定めを開始した。
もうテストのことは頭にないらしい。切り替え早。
「あ、君もしかしてAクラス?」
Aクラスから出てきた女子に話しかける黒瀬。
「え、はい。そうですけど・・・」
「俺も君と同じで新入生なんだけどさ~、転校してきたばっかりで今友達いなくてさ~」
お前、生まれも育ちもこの街だって中学の時言ってたじゃねーか。
あと女の子を、友達がいないと言って誘うのはどうなんだ。
「今日授業が終わったら、放課後テストの復習を一緒にどうかな?」
「えーっと・・・・」
迷ってる迷ってる。
「・・・ごめんなさい。放課後用事があって・・・」
あ、逃げられた。
うん賢明な判断だ。さすがAクラス。
というか今のは、どんな女子も反応に困るだろう。
そそくさと教室に退散する女子。
見送る黒瀬。
「なあ、しばっちょ」
「なんだ」
「ナンパに失敗したのは、累計何回目だ?」
へー、今のナンパだったんだ。知らなかった。
「俺が知ってる限りでは、もうすぐ1000回だったと思うが」
オレもなんでこんなくだらないことカウントしてるんだろう。
「ナニが悪いんだ?・・・俺の・・・」
自分の胸とオツムに聞けよ。
「というわけで、俺もう一度トイレに行ってくる」
トイレへ行くぐらいでわざわざオレに断るな。
去っていく黒瀬の背中が、妙にすすけて見えた。
黒瀬は中学の時から、女子にナンパを仕掛けてはフラれていた。
失敗する原因はナンパする相手がよくない時もあるのだが、大体は黒瀬の自業自得だった。
どうにもやり方がトンチンカンなのである。
もうすぐ1000回に到達するのだから、とっくにコツを掴んでいてもおかしくないのだが、
黒瀬にはその方面の学習能力がないらしい。
このままだとこれからもフラれ続けるのだろう。
前から思ってたが、黒瀬のフラれたエピソードを集めていけばいい“ネタ”になるかも知れない。
オレは手帳に“夜・黒瀬フラれエピソード書き出し”と書いた。
こうしておかないと忘れるんだよな。
オレはもう一度近くで順位を確認しようと掲示板近くに寄る。
1位 柴田聡
やっぱりそこにある、自分の名前。
変な感じだ。
黒瀬に言った通り、本当順位なんかどうでもよかった。
そこそこの点数がとれれば、オレは満足だったのに。
しかしこの結果。
大して勉強も準備もしていないのに、思いの他スラスラ解けてしまった。
クラスメイトに勉強教えてくれとか言われるかも。
ちょっと目立たないようにしてよ。
で、なんとなくまた順位に目を移した時だった。
金属バットを持った、一人の女子生徒がこちらをガン見していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
えーっと・・・・
どこから突っ込んだらいいのか・・・
というか先生に報告した方がいいのか?・・・
女子生徒と見つめ合う。
それとなく目をそらすオレ。
えーっと・・・何だアイツ?
そして手に持ってるアレはなんだ?
何で誰も注意しない?
どうしてこっちを見てる?
自分の胸に聞いてみるが、さっぱり心当たりなし。
しかし、あの形相はただ事ではないということだけは感じ取れた。
オレはもういちど姿を確認するため、恐る恐るそいつの方を向いた。
そいつはセミロングの茶色がかった髪で、
前にかかった髪を、赤い髪留めでとめている。
顔立ちははっきりしていて、若手の女優みたいな雰囲気があった。
が、今は眉間にしわが寄っていて、なんとも近寄りがたい空気を放っていた。
今、腕を組んでこちらを見ている。
蛇に睨まれたようなとはこういう感じなんだろう。
そして、なるべく気にしないようにしていたのだが、
視線はどうしても手に持っている金属バットに目がいってしまう。
で、どうするオレ。
いつのまにか冷や汗が滝のように出ている。
話しかけた方が良いんだろうか。
この時間、こんな場所で金属バットを持っているような奴にか。
いやいや、明らかに面倒なことになるフラグが立っているぞ。
今、オレの周りに生徒はいないから、アイツが見ているのはオレで間違いない。
しかし、今この状況で彼女に話しかけるのは頭がNoと赤ランプ表示で警告していた。
「そこのアンタ」
「え、は、はい?」
こっちが悩んでいると、当の金属バット女が話しかけてきた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「えーっと・・・何でしょう?」
彼女は掲示板の一番上を指差す。
指の先にあるのは、俺の名前。
「アンタ・・・柴田聡ってどの人だかわかる?」
「え?」
さて問題、オレはこれからどうするでしょう?
A: 素直に「オレです」と名乗り出る。
B: 嘘をついて、黒瀬のことを教える。
チッチッチッ、ポーン。
正解は・・・
「Dクラスのツンツン頭の奴がそうだよ」
正解はB。この主人公、結構黒い。
「あ、そ。ありがと」
そう言って、彼女はバットを引きずりながら去っていった。
・・・・・・・・・・・・・・
ふーっ・・・・
緊張が解けた。
冷や汗がようやく止まった。
何だったんだ?アイツ・・・
ほっと一息、とそこで気づいた。
とっさに黒瀬のこと教えちゃったけど・・・大丈夫かアイツ?
キーンコーンカーンコーン。
と、ちょうどチャイムが鳴った。
ま、いっか今は。って良くないけど。
先生に言ったほうがいいよな。絶対。
あとで黒瀬がどうなったか聞きにいこう。
手帳に忘れずに“昼食時・黒瀬に女子生徒との顛末を聞く”と記入。
オレは職員室へと歩を進めた。
「今日からこのAクラスの担任になる山野だ。よろしくな」
ホームルーム。
担任の先生が自己紹介を終えた。
数学の先生だそうな。
見た感じと紹介を聞くかぎり、いい先生みたいだ。
入学式の教師の顔ぶれを見たとき、厳しい先生もいるみたいだったので心配していたが、なんとかやっていけそうだ。
これで1年間は一安心だ。
「じゃあ、次はみんなの自己紹介だな。五十音順でいいな?」
えーッ!!
騒ぎ出す生徒たち。
「コラ!静かにしろ!じゃあまず赤星から」
新学期恒例の行事だけど、面倒くさいよな。
ここで漫画とかラノベだと、変な自己紹介したりする奴がいてちょっと盛り上がるんだけどな。
ただのナントカに興味はありません!!とかな。
そういう自己紹介に興味はあるけど、まあ自分は無難な紹介でいいだろう。
ただでさえテストで学年1位になってるんだから。
順番に自己紹介していく生徒。
と、そこで気づいた。
教室の端、前から4番目。
見覚えのある茶色がかった髪。
固まる俺。
アイツ・・・このクラスだったのか。
と、そうこうしているうちにアイツの順番になった。
おもむろに立ち上がると言った。
「稲森瀬奈、南星中学から来ました」
へぇ~、稲森っていうのかアイツ。
可愛い名前だな。見た目も若手女優みたいな感じだけど、名前を聞くとますますそれらしい感じだ。
俺が一人納得していると、稲森は続けた。
「今の目標は、クラス分けテストで1位の柴田聡を、殺すことです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・ん?」
ちょっと待て。
誰をナニするって?
今、聞こえてはいけない動詞が聞こえた気がしたんだが。
殺すって。
コロスって。
シバタサトルヲ、コロスッテ
コロスッテ、ナニ?
殺害
殺害(さつがい)とは、対象となる生物の生命活動を停止させる行為を指す。
生命は、その生化学的な機能を有し、また生物的な活動を持って「生きている」と認識される。
殺害は、この生命に働き掛けて、その機能を破壊するなどして、生命としての活動を停止させる行為である。(Wikipedia)
ソウデシタ。ベンキョウニナリマシタ。
デ、『シバタサトル』ヲコロスッテ?
シバタサトル・・・・・
アレ?『シバタサトル』ッテ、ダレダッケ?
殺気、ドッカで美馬シタヨ?
ケイジバンのイチバンウエ。
壱位 シバタサトル
スゲーヨ。イチイッテ。
シバタサトルガイチイ。
ン?コクバンノ、イマオレガイルセキニ『シバタサトル』ッテ。
アア、ソウダ。シバタサトルって、
オレだアアアアアアアア阿アアああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
ざわめき始める教室。
(ねえ。柴田って誰?)
(ほら真ん中の席の・・・)
(えっ!あの人が1位?!全然そう見えない・・・)
悪かったな。そう見えなくて。
(アイツが1位の・・・)
(やっぱいるんだな~天才って)
(で、その柴田って人と稲森さんはどういうつながりなの?)
イヤイヤみんな。もっと注目しなきゃいけないワードが出てただろーよ!!
そんなオレを尻目に、稲森は周囲の目などものともせず着席。
そしてクラスの目が注目する中、俺の番。
ていうか、今自己紹介したらオレが柴田聡だってあの女にばれるじゃん。
「柴田聡、蒼美一中から来ました・・・・・・・よろしくお願いします」
結局、稲森の敵対的自己紹介のおかげで、テンプレな自己紹介に終わってしまった。
その後、当然だが殺気のこもった視線が痛かったが、オレはどうしても視線の主の方を振り向くことができなかった。
昼休み。
黒瀬に稲森のことで話を聞くために、こそこそDクラスへ。
「黒瀬ー?」
黒瀬はどこの席になったんだろうか?
近くにいた男子生徒に聞いてみた。
「黒瀬?ああ、一番後ろ。窓際の端だよ」
見ると、当の本人が机に突っ伏していた。
オレは礼を言い、黒瀬の肩に手を置いた。
「おい黒瀬」
「・・・・・・・・・・」
「あのさお前、オレと別れた後でお前の所に女子が来なかったか?」
「・・・・・・・・・・・・来た」
「なんて言ってた?」
「そのことも含め、お前に聞きたいことが山ほどある・・・」
黒瀬がゆらりと立ち上がった。
「まず聞くぞ。誰だあのイカレ女」
「知らない。今日初めて会いました」
「あの女と、何にもなかったのか?」
「だから、初めて会ったって」
「今日初めて会った奴が、どうして金属バット持って追っかけてくるんだよ?!」
「・・・・・・・・」
なんだそりゃ。
そんな物騒な奴、ますます心当たりがないぞ。
黒瀬が震えながらオレにつかまってきた。
「あの女がいきなりやって来て『アンタが柴田ね?』って聞いてきたんだ。
そしたら俺が答える暇もなく、金属バット振りかざして『・・・死ね!!』って言いやがってさ。
俺、生涯初めて確信を持って『殺気』と呼べる代物に出会った気がする・・・」
「???」
黒瀬によると事の顛末はこうだ。
オレと別れた稲森は、わざわざDクラスの黒瀬の所に押しかけて、
金属バットで『柴田聡』に天誅を下すつもりだったらしい。
金属バットで初対面の相手を襲撃。
初めて会った時から普通ではない空気を放ってはいたが、まさかここまでとは。
そもそも正気なのか奴は?オレも黒瀬同様、あの女には注意せねばなるまい。
結局、授業開始の時刻を過ぎて教師に注意されるまで、黒瀬は稲森に追い掛け回されたそうだ。
そして稲森は金属バットを持って追い掛け回していたのに、教師からはそのことについて少ししか注意がなかったことを、
黒瀬は不思議がっていた。
「ゼッタイおかしい!!あれだけのことを俺にしておきながら、なぜアイツは注意がちょっとだけなんだ?!」
「そうだな。それはおかしいな」
実はオレも初対面の後、職員室に報告しに行ったときに、
教師たちが稲森についてはっきりしたことを言わないのを変に感じていたところなのだ。
しかし、そのことは黒瀬には黙ってよう。
「おい!しばっちょ!本当に知らないのか?!!」
「ホントーに知らないです。ていうかそんな奴知り合いになりたくないです」
というか稲森に黒瀬のことを教えたのがオレだということを、黒瀬は知らないらしい。
それはそれはよかった。面倒事は人任せにするに限る。
「は、そうだ!こんなところで寝てる場合ではなかった!!」
黒瀬は高速の速さで出入り口の外を確認する。
「あの女がまたどこで俺を狙ってるかわからないからな」
「ああ、そうだな」
「あ、そうだ。しばっちょ。あの女を見かけたら携帯にメールを送ってくれ」
「うんわかった」
無理だな。だって携帯は校則で禁止されてるし、そもそもオレは携帯は持たない主義なんだ。
「・・・そういやお前。何か俺に用があったんじゃないのか?」
「いや。なんでも」
面白いネタが見つかって、これ以上何もいらないです。
「そうか。じゃあ俺は忙しいから!!」
物陰に隠れつつ教室を去る黒瀬。
オレはそれを見送った。
と、そこへ。
「ちょっとアンタ」
噂をすればだ。ちなみに金属バットは持ってない。
「ああ、柴田君ならさっき出て行きましたよ?」
「・・・・ホント、とんでもない悪党よね。嘘を教えて自分の友達を犠牲にするなんて」
バレてるよね。一緒のクラスだもん。自己紹介しちゃったし。
と、むんずと腕を掴まれる。
「おい、どこへ行くんだ?」
「屋上。アンタには言わなきゃならないことが多すぎるのよ」
「ちょうどよかった。こっちも言いたいことがあったんだ」
「それは話が早いわ」
さて、この女がどうしてオレを殺したがってるか、じっくりと聞こうじゃないか。
いいネタになるといいんだけど。
というか、オレは五体満足で帰ってこれるのかな?
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